ABS樹脂の特性と用途 加工と代表的プラスチック製品

By | 2014年10月2日
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ABS樹脂の用途 工業製品で最も汎用性が高い素材

プラスチックの基本は分子と分子が組み合わさって構成されている。その種類は非常に幅広く、作る製品の種類に応じてさまざまだ。とりわけ現代の工業製品に求められるプラスチックの素材は、製品の特長に応じてさまざまな使われ方をする。

中でもABS樹脂は最も汎用性の高いプラスチック素材だといえよう。

その使用範囲は非常に幅広く、自動車や家電製品、住宅用建材、家庭用品などさまざまだ。まさに現代の工業製品はABS樹脂が無くては語れないともいえる。

例えば身近なものでいうとノートパソコンやプリンター、洗濯機に冷蔵庫、テレビ、カーオーディオ、カーナビ、旅行用のキャリーカート、建築の外装などなど、あげればきりがない。とりわけ家電製品やIT製品などのボディは、ABS樹脂で作られていることが多い。

極端な言い方をすれば現代の生活はABS樹脂で構成されているといっても過言ではないほど。このようにありとあらゆるものに使用されるABS樹脂だがなぜこれほどまでに幅広い製品に使用されているのだろうか。

それはABS樹脂が持つ特性にあるからだ。最近ではその汎用性の高さから3Dプリンターの材料としても認知され、多くの人に使用され始めている。

ABS樹脂は現代のさまざまな工業製品に使用される

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ABS樹脂の歴史

もともとABS樹脂が初めて使用されたのは1960年ごろと言われている。

製品化を行ったのはアメリカの企業U.S.Rubber社で、1954年に製品化された。もともとはポリスチレンというプラスチック材料の耐衝撃性を改良するために開発されたもので、ポリスチレンにアクリロニトリル、ブタジエンという物質を化学的に結合することで作られた素材。

そのため、アクリロニトリルのA、ブタジエンのB、ポリスチレンのSをとって、ABS樹脂と命名されることとなった。具体的に言うと、アクリロニトリルの耐熱性、機械的強度、耐油性、ブタジエンの持つゴムの特性、耐衝撃性、ポリスチレンの光沢性、加工性、安定性を持つ。

このように上記の3つの成分の長所を合わせ持つ上に、見た目も光沢があり美しい外観を持っていることから、デザイン性が重要視される現代の工業製品には多く使用されている。また、表面加工や塗装、印刷などの後処理にも適したプラスチック素材で、その柔軟性から多くのモノづくりに重宝される素材だ。

 ABS樹脂の特性 強みと弱み

既に上記で述べたが、ABSの一般的な特性を簡単にまとめると、耐衝撃性や高い剛性を持ち、加工も容易で、表面も光沢で美しい仕上がりが可能ということがあげられる。こうした高い性能からさまざまな製品に使用されているが、具体的にその特性をご紹介しよう。

 ABS樹脂の長所

  • 耐薬品性を持つ。酸やアルカリに強い(ただし有機溶剤には弱い)
  • 剛性に優れ、耐衝撃性、曲げ疲労性、引っ張りなどに強い
  • 耐熱性、耐寒性に強い、耐熱温度70~100℃
  • 加工性に優れており、さまざまな加工方法に対応している。
  • 射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形、カレンダー成形、熱溶融積層法(FDM)に対応
  • そのほかの表面加工が容易、印刷、塗装、メッキ、切削、接着、溶接などが容易にできる
  • 表面の光沢性に優れており、塗装なしでも高品質な質感を出せる

ABS樹脂の短所

  • 耐光性に弱い。日光、紫外線で強度が劣化する
  • 耐熱性が高いとはいえ可燃性なので燃える
  • 加工中独特の臭気を発する

ABS樹脂の製法

ABS樹脂はベースとなるポリスチレンにアクリロニトリル、ブタジエンという二つの成分を加え、合成したプラスチックだが、いきなりこの二つの物質を混ぜ合わせて作られたわけではない。

はじめは二通りのパターンで実験が行われた。まずはベースとなるポリスチレンの良さ、すなわち透明性や加工性、電気特性を生かしたまま、改良を行なうことが試みられた。

はじめは耐衝撃性を備えるために合成ゴムを加えHIPSハイインパクトポリスチレンが作られたが、耐熱性と剛性が不十分であった。

もう一つのアプローチとして作られたのがポリスチレンにアクリロニトリルを加えることで作られたAS樹脂のアプローチ。しかしAS樹脂には耐衝撃性が不十分であった。こうした試行錯誤の繰り返しから、AS樹脂の耐衝撃性をカバーするために合成ゴムの主成分であるブタジエンを加えABS樹脂が誕生することとなった。

今でもこの手法がABS樹脂の製法の一つとされており、ポリマーブレンド法として使用されている。ポリマーブレンド法はAS樹脂にゴムと添加剤を加えてミキサーで混ぜ合わせ押し出し機でペレットにする製法。

ABSの代表的製法と言えよう。もう一つの製法は乳化グラフと法と言われる製法で、スチレンに上記のアクリロニトリルとラテックス、乳化剤などを混ぜ合わせ、水分を遠心分離機で取り除き、押し出し機でペレット状にする製法になる。多少異なるが、基本のベースはABS樹脂開発時における研究工程が影響しているといっていい。

ABS樹脂の種類

ABS樹脂は3つの成分ポリスチレン、アクリロニトリル、ブタジエンの長所が生かされたプラスチック素材だが、この3つの成分の配合率を変化させることでさまざまなABS樹脂を作り出すことができる。また上記の3つの成分以外に、追加で他の成分を加えることでさらに強力なABS樹脂や、特別な性能を備えたABS樹脂を作り出すことが可能だ。ここでは例としていくつかご紹介しよう。

剛性を高めたABS樹脂 強化ABS樹脂

強化ABS樹脂とはABSの剛性を高めさらに強化されたABS樹脂だ。3つの既存成分に加えて主に繊維素材を加えることで剛性を高めることができる。繊維の種類もさまざまで、最も多く使用されるのがガラス繊維。また最近では炭素繊維を加えてプラスチックでありながら強度な剛性を持つ強化ABS樹脂も登場している。

耐熱性を高めたABS樹脂 α-メチルスチレン系とフェニルマレイミド系のABS樹脂

ややこしい名称だが、この二つのABS樹脂、α-メチルスチレン系ABS樹脂とフェニルマレイミド系ABS樹脂は、通常のABS樹脂よりも耐熱性を高めたものになる。違いはα‐メチルスチレン系の耐熱性を更に高めたものがフェニルマレイミド系のABS樹脂になる。

 耐候性を高めたABS樹脂 ASA樹脂、ACS樹脂、AES樹脂

この耐候性を高めるために作られた樹脂はABS樹脂の3要素のうちのB-ブタジエンの代わりに別の素材を使用することでABS樹脂の弱点である耐候性を高めようとして作られたものだ。ASA樹脂はブタジエンの代わりにアクリルゴムを重合させたもの。

耐衝撃性に優れると同時に耐候性を高めている。ACS樹脂はブタジエンの代わりに塩素化ポリエチレンを重合させたプラスチックだ。こちらも機械的物性を保ったまま、耐候性を高めることに成功している。三つ目のAES樹脂は、ブタジエンの代わりに、エチレン系ゴムであるEPDMを重合させて耐候性を高めている。

ABS樹脂の加工 塗装せずに高級感を出す射出成形

ABS樹脂の最大の特長は加工性の良さだ。プラスチック成形の中で最も多く使用される射出成形や押出成形、ブロー成形や真空成形など、金型を使った大量生産に適した素材として知られている。

また切削や塗装、メッキなどにも高い適応力を見せる非常に加工性が高い素材だ。また、最近では3Dプリンターの材料として知られ最もポピュラーな材料として広がりを見せている。

そんなABS樹脂だが、その素材の特性を最大限活かすことができる製法がある。これまで述べてきた多くの電化製品の外装などは、この方法で作られていることが多い。それがプラスチック成形で最も多用する射出成形だ。上記でも述べた通りABS樹脂は高い物性以外に、光沢感のある美しい外面が特長的な素材。

この光沢を活かし、塗装することなく、高級感のある仕上がりをすることが可能になる。その製法を可能にするのが射出成形だ。例えば、最近の薄型テレビや、プリンターなどの光沢のあるブラックはピアノブラックと呼ばれるが、塗装することなく特殊な射出成形で作ることが可能だ。

通常ピアノブラックの光沢を出す場合には、研磨と塗装を繰り返すことで質感を作り出すが、研磨と塗装の繰り返しは非常にコストがかかるためこの射出成形による製法がとられるようになった。具体的には金型内の温度をコントロールすることによりピアノブラックの光沢を塗装と研磨をすることなく作り出す。

下記はピアノブラックの質感の家電製品だが、こうした高級感のある美しい仕上がりもABS樹脂ならではの加工と言える。

塗装することなくピアノブラックの光沢も出せるABS樹脂

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ABS樹脂の塗装とメッキ

ABS樹脂はプラスチック素材の中では比較的後加工がしやすい素材としても重宝されている。

たとえば塗装や印刷、メッキ加工なども成形後に施すことが可能だ。塗装に関して言えば、ABS樹脂には対溶液性に限界があることから、使用する溶液によっては劣化したり破損したりする恐れがある。

一方でABS樹脂は金属のようなメッキ加工が施しやすい素材と言えるだろう。ABS樹脂の成分については何度も述べてきたが、3つの成分から成り立っている。

メッキ加工はそのうちの一つであるブタジエンを剥がしてメッキする方法が一般的だ。エッチングといわれる表面加工を施し、ABS樹脂の表面のブタジエンだけを溶かして穴をあける。そこの空いた部分にメッキ加工を施せば綺麗に表面がメッキされるという仕組みだ。エッチングとは物質の表面の必要な部分だけを腐食作用によって剥がす技法。

このエッチングによって空いた部分がアンカーフックの役割を果たし、表面にメッキされてもはがれない。一般的にプラスチックへの塗装やメッキはそのプラスチックの表面の物性によっても可能不可能がある。ABS樹脂はこうした面からも表面加工しやすいプラスチックだと言えよう。ちなみに自動車のフロントグリルなどはこのプラスチックのメッキ加工でできている。

自動車のフロントグリルはABS樹脂のメッキ加工

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3Dプリンターの材料としてのABS樹脂

ABS樹脂という言葉はもともとプラスチック成形の分野でしか知られてこなかったが、最近では少しずつ身近な存在になりつつある。その最大の理由が3Dプリンターの認知が広まっている事があげられる。

とりわけABS樹脂は熱溶解積層法(FDM)と呼ばれる製法で使用される材料として有名だ。熱溶解積層法はもともとアメリカのストラタシス社によって開発された製法で、fused deposition modeling、通称FDM製法と呼ばれる。原理はシンプルでフィラメントと呼ばれる棒線状の樹脂を熱で溶かして積層していく方法だ。

この製法は特許切れによって昨年以降、低価格帯の3Dプリンターとして流通が期待されているが、FDMの3Dプリンターの普及に伴ってABS樹脂の3Dプリンター用材料も、ますます利用が拡大していくと予想されている。

FDMの3Dプリンター用の樹脂素材は細かい糸状になっていることからフィラメントと言われている。ABS樹脂の3Dプリント用フィラメントの物性も、基本的にはこれまで述べてきた物性を持っておりなんら変わることは無く、成型後の加工や塗装に適している。ただし現在の低価格帯のFDM3Dプリンターは性能がそこまでいいわけではなく、樹脂を押し出すノズルが詰まったり、ミスプリントが多いのが難点と言える。

しかし3Dプリンターの性能は急速に向上してきていることから、今後はABS樹脂の需要もどんどん伸びていくだろう。また、上記で述べたが、ABS樹脂はその他の成分と混ぜ合わせいろいろな特性を出すことができるため、3Dプリンター用のフィラメント材料でもいろいろな物性を持つABS樹脂が登場するかもしれない。

3Dプリンターの材料として需要が伸びるABS樹脂

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まとめ ABS樹脂の今後

ABS樹脂は約半世紀にわたってさまざまな製品に使用されてきた、いわば工業製品にとって欠かすことができない主力素材だと言えよう。その使用範囲の幅広さと、さまざまな製法に対応した加工の柔軟さは、プラスチック素材の中でもABS樹脂の右に出るものはない。

これまで述べてきた工業用製品に始まり、プラモデルやフィギュアなどのおもちゃや、3DプリンターによるDIYや試作など、あらゆる立場の人々に需要があると言える。また、強化ガラス繊維や炭素繊維など、それ以外の異なる分子と組み合わせることで、いろいろな機能性プラスチックに加工することも可能だ。

今後も多くの産業で中心的役割を占めていく素材と考えられる。とりわけ期待されるのが、従来からの金型による量産以外に、3Dプリンターの普及によって広がる試作製造などだ。

上記でもご紹介したが3Dプリント製法はプラスチックを材料として使用する場合、熱溶解積層法(FDM)によるものと液体状の樹脂を光で固める光造形法の二つの種類に分かれる。ABS樹脂はその中でも熱溶解積層法(FDM)の主力となる材料であり、今後の3Dプリンターの普及拡大に伴って、高い加工性を持つABS樹脂の3Dプリントフィラメントの需要はますます増えていく。

これまでモノづくりに関わりの無かったより多くの人々が3Dプリント技術により素材や製法に興味を持ち、新たな発想から人に価値を与える製品開発が生まれることが望ましい。

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