セルロースとカーボンナノチューブの導電性3Dプリント新素材

超軽量、鋼鉄以上の強度を持つセルロースの3Dプリント研究

素材の開発は、単純に素材そのものの開発で終わることはない。必ずその素材の利用方法や製法とセットで研究がなされるものだ。また、こうした素材開発は、全く異なる種類のものを掛け合わせることで、意外な可能性をもたらすものも存在する。本日ご紹介するセルロースの3Dプリント材料もその一つだ。

最近では新素材の開発は必ずといっていいほど3Dプリントで使用するということを想定しており、このセルロース素材もその一つ。セルロースとは木や植物からとれる紙の原料にもなっている繊維の主原料とも言えるものだ。発見はフランスだが、実際の人工合成は日本で成功している。また、森林が多い日本ではセルロースナノファイバーという素材として期待が寄せられ、さまざまな工業、医療用に利用できると期待が集まっている新素材でもある。

このセルロース、主な利用方法として樹脂素材などとの合成でその真価を発揮し始めている。ナノレベルでの繊維素材であることから、電子顕微鏡で見て、ようやくわかるほどの繊維の網の目で構成されている。そのため超軽量であると同時に鋼鉄以上の強度を持つ特性があるのだ。

このセルロースの特性によって、その他の素材と合成されると、軽くて丈夫な新素材ができるというわけだ。例えば軽量・高強度の素材は自動車部品にも使用できるし、エアコンのフィルターなどにも最適だ。アクリル樹脂エポキシ樹脂などの透明樹脂と混ぜ合わせることで、自由に曲げることができる透明の繊維強化材料を作ることもできる。

このように未来の新素材として期待が集まるセルロースだが、新たにスウェーデンで、超高電動のカーボンナノチューブと配合するエレクトロニクス3Dプリントの可能性を拡大する開発がなされている。

カーボンナノチューブとの融合で導電性素材の3Dプリントが可能に

このセルロースとカーボンナノチューブの3Dプリントの開発を行っているのは、スウェーデンの超名門工科大学、チャルマース工科大学の研究チーム。ちなみにチャルマース工科大学は材料工学の研究では世界屈指と言われ、スウェーデンの大学ランキングでほぼ1位を独占している名門大学。

また、その評価はヨーロッパでも指折りのエリート校と言われるほどだ。このセルロースの3Dプリント材料の開発は、このチャルマース工科大学の生物化学工学専攻の研究者グループで構成される部門と、木材から新素材を開発する バレンベリーウッド科学センターが行っている。彼らが行う研究開発はセルロース単体の3Dプリントではなく、カーボンナノチューブと配合した3Dプリントの研究だ。

ちなみにカーボンナノチューブとは、高い導電性が期待され、シリコンに変わる素材として半導体の材料として使用が期待されている。その特性は、銅の1000倍以上の高電流密度耐性、銅の10倍の高熱伝導特性を持ち、新たなエレクトロニクス素材として集積回路への利用が期待されるものだ。もともとセルロースは熱による寸法変化が起きにくい素材。そのため高熱で溶融し、それを再び硬化させるという3Dプリント製法には不可能であった。

しかし、チャルマース工科大学の研究チームは、この熱による形状変化が起きないセルロースに、ヒドロゲルを加えることによって3Dプリントを可能にしている。ヒドロゲルはゼラチンなどをつくるゲルだが、95パーセントから99パーセント水で構成されており、これがセルロースと混合することで熱溶融で積層し、硬化させることが可能になる。そして最終的に、これに上記で述べたカーボンナノチューブを配合して新たな3Dプリント材料を完成させたというわけだ。

セルロースとカーボンナノチューブの3Dプリント素材を開発した研究チーム
セルロースにゼラチンを加え3Dプリント可能にしたもの
カーボンナノチューブを加え電子回路をプリントしたもの

まとめ エレクトロニクスの製品開発を拡大する

このセルロースとカーボンナノチューブにおける3Dプリント材料の開発は新たなスマートエレクトロニクスの製造を可能にするだろう。カーボンナノチューブもセルロースほどではないが、アルミニウムの半分の軽さで、鋼鉄の20倍もの強度をもち、繊維方向での引っ張り強度ではダイヤモンド以上もの強度を持つ。

いわば、軽くて丈夫で、しなやかな弾性を持つ二つの素材が掛け合わさり、さらにはそこに高導電性が付与されるということになる。この素材の開発による第一のメリットは、セルロースが完全に生分解性である無限の再生可能な素材であることから環境にやさしい材料開発が可能になる。

そして第二に、作ることができるエレクトロニクス製品の幅が大幅に拡大することを意味する。より微細なレベルでしかも、しなやかな弾性を持つ、電子回路プリントなどが1枚単位で作ることができれば、エレクトロニクスのデザインや機能性は更に可能性をますことになるわけだ。

現在この素材はチャルマース工科大学の研究チームによって開発されている最中だが、一つの素材が製品の機能を変え、ものづくりを革新的に変革してしまう可能性もある。

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