ローカルモーターズは世界初の道路対応3Dプリント自動車LM3Dを発表

世界初の道路対応3Dプリント自動車LM3D登場

ちょうど1ヶ月近く前の9月中旬、ローカルモーターズは自社で開発する3Dプリント自動車の本格受注を開始すると発表した。彼らが開発するタイプは2機種あり、一般道対応の低速電気自動車モデルと、高速道路対応モデルの2種類だ。高速道路対応モデルはまだしばらくさきだが、一般道対応モデルバージョンはとうとうその姿を現すこととなった。

本日はローカルモーターズが発表した、本格的な一般道対応の3Dプリント自動車LM3Dをご紹介しよう。昨年、カナダの国際製造技術展で発表されたコンセプトカーStratiから比べて、はるかに洗練され、実用車にふさわしい完成度を達成している。この世界初の一般道路対応の3Dプリント自動車LM3Dは、11月3日から6日まで行われているSEMAショーで発表され2016年春からプリオーダー、2017年に販売がスタートする予定だ。

価格はプリオーダーで53000ドル(630万円)とちょっと高めで、リリース時の18000ドルを大幅に上回っている。また、同社は来年2016年中に高速道路対応の新モデルを発表する予定だ。

世界初の実用的な3Dプリント自動車LM3D動画

ミリング機能も搭載。研磨とビニールフィルムで美しい外観を達成

この世界初の3Dプリント自動車LM3Dは、かねてからローカルモーターズの共創プラットフォームとも言えるクラウドコミュニティで投稿されたデザインをベースに開発された車だ。昨年のコンセプトカーStratiとは違い、公道で使用するための実用車として設計・製造されている。このLM3Dの最も目を引く点が、前回のコンセプトカーStratiとの完成度の違いだ。

エンドユーザー向けに販売するのであれば完成度が高くて当たり前だが、ローカルモーターズはこのクオリティをデジタル製造でどのように達成しているのだろうか。今回のLM3Dの製造に使用される3Dプリンターもオークリッジ国立研究所とシンシナティ株式会社が開発する巨大3DプリンターBAAMシステムだ。実はこのBAAMシステムも昨年のStratiの登場の時から独自の進化を遂げており、もはや単なる巨大な3Dプリンターではない。

かつてのBAAM3Dプリンターは、炭素繊維配合の巨大なFDM 3Dプリンターというようなものであったが、現在では、3Dプリントだけではなく、ミリング加工まで機能として搭載している。完成にあたってはミリング加工のあとは研磨し、ビニールフィルム加工を施して完成させるという工程だ。このLM3Dのルビーレッドの外観もこうした新たな工程から生み出されたものである。

巨大3DプリンターBAAM
研磨加工とビニールフィルム加工で処理

あらゆるクラッシュテストを実施。道路上での使用許可を全て取得予定

今回、このLM3Dは、デザインの決定から車体の完成までなんとわずか2ヶ月しかかかっていない。最終デザインが決定したのが7月7日、車体が完成したのが9月18日という驚くべきスピードだ。巨大3DプリンターBAAMのみの製造だけではもっと早い。昨年のStratiでは6日間で組立に成功しているが、将来的にはこのプリント時間をさらに高速化させる方向にある。もちろん公道で走行するための安全基準を満たしたうえでの製造体制ということは言うまでも無い。

今回のLM3Dでは、道路上での使用許可を取得するためのあらゆるクラッシュテストを実施し、その全てのテストは2016年以内に49もの連邦自動車安全基準をクリアすることが予定しているという。ローカルモーターズの発表によれば、伝統的な製造による車よりも3Dプリント自動車のほうがより安全になることを目標にしているとのことだ。また、車体のボディを構成する素材は、ABS樹脂80パーセントに、炭素繊維を20パーセント配合したもの。

昨年のStratiに比べ炭素繊維の配合が5パーセント増強されている。

コンセプトカーとは見た目も安全性も全く異なる

3Dプリント自動車のIOT化。IBM、シーメンス、IDEOとの提携を発表

ローカルモーターズが目指すのは単なる自動車のデジタル製造ではない。現代のIOT時代に対応した3Dプリント自動車の開発を目指している。既にその動きは水面下で行われておりIBMやシーメンス、世界的なデザイン会社IDEOとの提携も発表した。例えばその一例として開発が行われているのがクラウドデータストレージと繋げるセンサーシステムの実装である。

あらゆる天気に関する情報、すなわち凍結状態や湿潤状態、人間の条件、霧などといった全ての気象データを、3万フィートの範囲で走行しながらリアルタイムに取得し、道路状況をいち早く知ることで安全性に繋げる機能を3Dプリント自動車に搭載する。このIOT化するためのセンサー実装の開発は今後5年から7年後には完成する見通しだ。またこれ以外に温度データ、GPSデータ、振動データ、加速度データを取得することができるセンサーを搭載し、リアルタイムで車に関する状況を把握できるようにするとのことだ。

発表されたLM3D。IOT化が進められることも発表

他のオープンコミュニティと違うローカルモーターズの取組

外観の美しさ、安全性、時代に対応するIOT化というように、ローカルモーターズは、着実に消費者の心をつかみ、より実用的な3Dプリント自動車の開発を行っている。こうした、根本的な商品としての価値があって初めて、オープンコミュニティによるデジタル製造が生きてくるのである。

今回のLM3Dは、彼らが提供するIOと呼ばれるクラウドコミュニティに募集された200以上ものデザインから選出されたものだが、ローカルモーターズはこの取り組みからもわかるとおり、オープンコミュニティの弱点を克服し最大限活かす方法をとっている。一般的にオープンコミュニティのものづくりの根本的な課題として挙げられるのが、デザイン性の低さである。このように言うと語弊があるかもしれないが、ここでいうデザイン性とは、使用する側のユーザーの立場に立った製品が登場しにくいという意味である。

デザインは基本的に「誰のために」という課題を克服しプロダクトをそこに適応させる技術だ。常にユーザーに対する「課題解決」と「新たな価値の創造」が伴っていなければならない。しかし、野放しなオープンコミュニティや3Dプリントマーケットプレイスのようなビジネスでは、単なる表層的なデザイン(厳密にはデザインではない)や個人の趣味に堕するプロダクトが集まり玉石混合の状態になりかねない。

個人の感性でつくられたものはあくまでアートであり趣味の部類。ユーザーに価値を与えるプロダクトデザインとは言えないだろう。しかし、ローカルモーターズは、こうしたオープンコミュニティの危険性を一定の審査、プロダクト本来の持つ機能、性能、安全性、外観といった価値を担保することで、克服することに成功しているのである。

まとめ 目指すのはハードウェアの日常的なアップデート

ローカルモーターズはワシントンDCのナショナルハーバーエリアと、テネシー州、ノックスヴィルに製造拠点となるマイクロファクトリーをオープンし販売を開始する予定。各マイクロファクトリにはBAAMを配備し、1日あたり2台の生産が可能になる。将来的には1日10台販売し、年間2500台から3000台を販売目標に上げている。

そこではオープンコミュニティによって優れたプロダクトを選出し、実用車として使用できる自動車が開発される。この仕組みによってローカルモーターズが目指すのはどのような体制なのだろうか。それはハードウェアの日常的なアップグレードということが挙げられる。例えば、ソフトウェアは登場してからも日々アップグレードが行われ、ユーザーにとって最適な形に改良が行われ続ける。

これと同じことを、ローカルモーターズは実用車レベルで行うということを目指しているのだ。こうした微妙な変化、修正は従来の自動車製造では不可能であるが、90パーセントを3Dプリンターで製造しようとするローカルモーターズでは可能かもしれない。ここではクラウドコミュニティにあつまるあらゆるユーザーの嗜好といったものだけではなく、新たな部品、パーツといった純粋なハードも含まれる。言うなれば常に進化し続ける自動車作りを目指そうという取組と言えるだろう。

ローカルモーターズのスタートは今が始まったばかりだが、今後更なる進化を続けていくことだろう。

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