リーボックの液体3Dプリントシューズ。靴のローカルクラウド生産が本格化

拡大するシューズの3Dプリント生産

3Dプリント技術の目指す先は、さまざまなプロダクトをデジタルデータから製造することだ。最終品、とりわけ個人が使用するコンシューマプロダクトにおいて3Dプリンターは、マスカスタマイゼーションに対応する生産マシーンとして期待がよせられる。

すでに、イヤホン眼鏡インソールといった人体にフィットさせて使用するプロダクトでは、その利用が開始され始めている。その人個人のフィジカルデータを3Dスキャニングし、3Dデータを自動で最適化し、カスタムフィットされたプロダクトを3Dプリンターで生産する。

こうした取り組みが徐々に浸透しつつある。本日ご紹介するリーボックもマスカスタマイゼーションに対応した新たな挑戦に取り掛かり始めている。すでにシューズの3Dプリントでは、ナイキアディダス、といった企業が取り組みを開始しているが、リーボックはこれまでにない新たなアプローチで、シューズの3Dプリントに取り組んでいる。

本日はリーボックが取り組む新たなシューズ製造の概念「Liquid Factory」についてご紹介しよう。

リーボックが開発した液体3Dプリントシステム「Liquid Factory」で開発されたシューズ(画像提供:リーボック)

リーボックの液体樹脂による3Dプリント「Liquid Factory」とは

今回リーボックが開発した3Dプリント技術は画期的な手法だ。これまでシューズの3Dプリントに関する取り組みが発表されたが、シューズ本来の快適さと機能性を保つには不十分な事例が多かった。

例えば、シューズには、足にフィットして気持ちよく過ごせる快適性と、歩いたり走ったりしたときの衝撃吸収性、更には使ってもすぐにダメにならない耐久性など、靴として実用性を発揮できる素材でなければならない。

しかし、既存の3Dプリント技術の多くでは、硬質に近いプラスチック素材が多く、シューズに最適な柔軟な素材が少ないのが現状である。例えば、以前ご紹介したアディダスのシューズの3Dプリントでは、柔軟性を持つ熱可塑性ポリウレタンのパウダーを使ったレーザー焼結法で実現しており、一般的な熱溶解積層法(FDM)では実現が難しいのが現状だ。

今回のリーボックの発表では、この押出の方法を高エネルギーの液体材料で実現している。下記はリーボックが発表している3Dプリントシューズの動画だが、独自に開発された液体樹脂によってアウトソールを完全に3Dプリントしている。

リーボックの3Dプリントシューズの動画

シューズ製造を根本的に変える力。金型なしのクラウド生産

この液体樹脂による3Dプリントは「Liquid Factory」と名づけられており、靴の製造方法を根本的に変えてしまう力を秘めている。

従来、靴の製造も多くのプラスチック材料と同様、金型を使用して作られるのが一般的であったが、このリーボックの「Liquid Factory」を使用すれば、金型を使用しなくても、デジタルデータからダイレクトにシューズのソールを製造することができる。

また、この新開発の3Dプリント技術は、既存の3Dプリンターに比べ、シューズのソール製造とポリウレタン素材に特化していることから、後処理が不要で、高速プリントが可能。

もともとリーボックはプロトタイプ作製の分野で、3Dプリンターを使用してきたが、既存の3Dプリンターではシューズ製造に特化されているわけではなく、プリントに時間もかかり、コストも高くなる。こうした既存の3Dプリントの課題から生まれたのが「Liquid Factory」だ。

シューズ製造に最適化された専用液体樹脂による3Dプリントを実現。
既存の3Dプリンターでは不可能な高速生産も可能にする独自システム。

今回、この「Liquid Factory」について元NASAのエンジニアで、「Future at Reebok」のトップでもあるBill McInnis氏は以下のように述べている。

「フットウェアの製造は過去30年間、劇的に変化していません。あらゆるブランドのすべての靴は金型を使用して製造されています。これは高額で時間のかかる製造プロセスです。Liquid Factoryは、靴の製作方法を根本的に変え、金型なしのシューズ製造の新しい方法を作り出したいと思い生まれました。これにより、我々が創り出すものは、まったく新しい可能性を生み出します。」

シューズ素材に最適なポリウレタン素材を独自開発

この「Liquid Factory」で使用されている液体樹脂は、リーボックが3Dプリントシューズのために、世界最大の化学メーカーBASFと、反応性樹脂システムの開発と製造を手掛けるRAMPF Groupの3社と共同で開発したもので、シューズに最適な機能性やフィット感、更にはダイレクト製造を可能にする。

BASFは、150年の歴史を持ち、全世界11万1千人を超える巨大企業でさまざまな化学品やプラスチック製品を開発販売している。また、BAMPF Groupもドイツに本社をもつ世界的な企業で、ポリウレタンの研究開発では高い技術力を持つ。

ポリウレタンはシューズの素材として多用されるプラスチック素材だが、液体樹脂の3Dプリント押出用として使用されたのは初めてのこと。この「Liquid Factory」では、金型なしでアウトソール部全体にレイヤーを描き作製するロボットプログラムで起動し、設計データからダイレクトに製造することができる。

シューズ素材に必須のポリウレタン素材を3Dプリントに最適化するために独自開発。(画像提供:リーボック)

「Liquid Factory」製造ラボで本格的なローカルクラウド製造を開始

リーボックはこの「Liquid Factory」製造ラボを、2017年から本格的に開設する予定だ。これにより、金型を使うことなく、後処理なしの完全なデジタルデータからのカスタマイズ3Dプリントシューズの製造を目指すことになる。この「Liquid Speed」製造ラボが稼働すれば、従来型のアジア中心の製造スタイルに縛られなくなるだろう。

例えば、金型を使った場合には、金型の製造コストが高額になることから、安価な労働力が必要になり、必然的にアジアを製造拠点にせざるをえなくなる。しかし、クラウドを基軸にし、「Liquid Speed」製造ラボを各エリアや地域に設ければ、より低コストでスピーディにエンドユーザーに製品を届けることが可能になる。

「Liquid Speed」は3Dプリントシューズの新たな取り組み。
本格稼働すればシューズのクラウドローカル製造が実現する。
シューズの金型製造。これまでのシューズの製造は金型を用いるのが一般的。
金属の塊を削り出し、調整を何度も繰り返す金型には多額のコストがかかる

リーボック・フューチャー・チームとは。シューズ製造の革新を研究

今回のシューズの3Dプリント「Liquid Factory」を立ち上げたのは、リーボックの中でも技術革新を行う部門「リーボック・フューチャー・チーム」だ。この部門は、新技術の開発や、アイデア、プロトタイプの作製に専念するチームで、「製品の革新だけでなく、製造プロセスも革新するために作られたチーム。

シューズを作るプロセスにスピード、カスタマイズ、製品性能の向上をどのようにもたらすことができるか(リーボック社長Matt O’Toole氏談)」を実践する部門だ。将来的には「Liquid Factory」のコンセプトを拡大し、ローカルカスタマイズ生産に対応していくことを計画している。ちなみに、この液体3Dプリントシューズは300足限定で作られ価格は189・5USD。

新技術の開発や、アイデア、プロトタイプの作製に専念するチーム「リーボック・フューチャー・チーム」が開発。
製品の革新だけでなく、製造プロセスも革新するために作られたチーム

まとめ 3Dプリント技術を自社に最適化することで時代に対応する

これまで、リーボックに限らず、日本のメーカーもふくめ、多くの製造業がアジアを中心に製造拠点を設けてきた。中国、ベトナム、インドネシア、マレーシア、タイなど、大量生産を行うためには金型や成型機など巨大な設備が必要で、同時にそのような設備は常に人の手で管理、コントロールされなければならなかった。

必然的に設備が高額になれば、製品コストを下げるため安価な人件費を求めることになる。この従来型の生産体制では、その国の経済成長に多きな影響を受け、経済成長を遂げ発展を遂げれば、労働コストも上がり、利益を圧迫することになる。しかし、3Dプリンターを中心にしたローカルクラウド製造では、巨大な設備は不要で、同時に大量の人員も不要になる。

また、クラウドで製品データが一元管理されることで、「Liquid Factory」のような設備を設ければ、輸送コストも大きく抑えることが可能だ。

わざわざ中国や東南アジアに原材料を集め大量生産し、再度母国に輸送するというプロセスは不要になる。ただ、このローカルクラウド生産を稼働させるためには、第一に生産マシーンの品質と生産性が重要になる。

リーボックが画期的なのは、既存の3Dプリンターでは不可能であったこの二つのポイントを、素材から開発することで、自社に最適化している点である。このシューズの3Dプリントカスタマイズ生産は、2017年から本格的にスタートする予定だが、新たな時代に対応した大胆な挑戦を行うものだけが、生き残り発展を遂げることを感じさせる取り組みだ。

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